パワハラ防止法の意義

パワハラ防止法が令和元年5月に成立しました。2020年4月からは,同法のうち大企業に対する防止措置の義務化についても施行されることになります。

このパワハラ防止法については,罰則がないことを問題視する向きもあります。(日本経済新聞令和元年6月18日朝刊11面「ツイッターここに注目 パワハラ防止法が成立」)

しかし,パワハラについては,現行法体系の元でも,例えば刑法に定めがある暴行罪,傷害罪,侮辱罪,名誉毀損罪などによって罰しうるのです。

しかも,民事的な責任は,パワハラを行った個人もその使用者企業にも発生するでしょう。十分な責任追求が期待できます。

そのような中で,あえて立法的な対応が必要な部分を探すとすれば,パワハラによって会社自体を処罰するという場面でしょう。この点はゆくゆく法律に盛り込んで欲しいものですが,その意義は象徴的な意義に止まるでしょう。

なぜなら,パワハラの証拠収集は難しいものですが,刑事裁判は証拠が非常に重視される手続が取られておりますから,半端な証拠と被害者供述だけでは有罪にするのが難しいからです。

(経済界の圧力もあって処罰規定を置けなかったという実情がありそうなところでもありますが・・・)

ただ,この象徴的意義というのが,小さそうに見えて大きいものです。社会の風潮は,様々な「なんとなくそうするものだと皆が考えている」というあたりで動いています。

ついでに申し上げますと,特殊な法文のように見えても,現実社会は複雑なもので,適用場面が稀に出てくるものです。つまり,パワハラ防止法に罰則を置いておけば,適用場面が出てきたかもしれない。それを今回の立法では見逃すことになります。

たった1件かもしれない。でも,その1件によって人が死ぬ事態になるかもしれない。立法は数の論理で動くから,そんな起こるか怒らないかも分からないような1件のために,法制度という全体に適用される枠組みを左右しがたいことは分かります。

しかし,これによって誰かが苦しみ,ひどければ命を落とすかもしれないことを忘れてはならないと思うのです。

パワハラ防止法が罰則を設けなかった分,個別の民事的請求が十分に行使されることこそ重要になる。つまり,弁護士が頑張らなければならない。報酬に結びつかない面倒そうな事件だからと投げ出すようなことがないことを願いたい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA